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スピッツ「i-O(修理のうた)」は、「夢じゃない」の後日談説~スピッツ歌詞解釈~

更新日:2023年7月22日



こんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、スピッツi-O(修理のうた)について解釈していこうと思います。



スピッツi-O(修理のうた)は、アルバム「ひみつスタジオ」の、1曲目に収録されている曲です。「ひみつスタジオ」全体を通して、「これは、何かのアンサーソングになっているのかな」という印象を、私はもちました。というのも、「なにか悲しいことがあった→でも未来は明るいよ」的なメッセージ性を、どことなく感じる曲が多かったんです。ただ明るく能天気な曲ではなく、悲しみが前提にありつつも、それでも明るく生きていこうよ的な。2段階構成になっているような。

この、1段階目の悲しみの部分ですが、それはいままでスピッツが表現してきた曲が、どうやら該当しそうなんです。

スピッツはこれまで、たくさんの悲しみを表現してきました。物事を深く深く掘り下げていって、人間の深層にある、触れてはいけないものを刺激するような、そんな鋭い曲が多かったんです。

なので、その深い悲しみを受け止めつつ、それでも前に向こうとしている曲を作ろうとした時、スピッツが意図してやっているかどうかはわからないんですけれども、今までの曲たちのアンサーソングに、自然となってしまうんじゃないかなと。



というわけで、ブログタイトルにありますとおり、「i-O(修理のうた)」は、「夢じゃない」のアンサーソングとして、対比して、見ていきたいと思います。



「夢じゃない」は、こちらで解釈しておりますとおり、地球滅亡後の世界を描いた曲なんじゃないかと、私は理解しています。

世界滅亡後に生き残った生命……この場合、植物の種子ですが、何もかもが消えうせた世界の中で、たったひとつの種子が、再び小さな島で芽生え、成長し、生い茂るまでの過程を描いています。

ここでは、種子と大地はパートナーになっています。種子は大地のおかげで根を生やすことができ、また大地も、種子が成長し木々になったおかげで、肥沃な緑の大地として再生することができました。

このように、不完全なものたちが補い合って、ともに生きていこうとする姿を、「夢じゃない」は描いているんじゃないかなと。

「夢じゃない」のPVもまた、荒廃した地球が舞台でしたが、主人公は種子と大地ではなく、ロボットです。しかしながら、このロボットは、相棒である別のロボットを修理しようとして失敗し、自らもまた寿命で動かなくなってしまいました。という、悲しい物語になっています。


「i-O(修理のうた)」は、「夢じゃない」の時の、刃物のような鋭い切り口で描かれた絶望感を、やさしく補完しなおした曲なんじゃないかなと。




何度故障しても直せるからと 微笑みわけてくれた

どんな答えなら良いのか解らず 戸惑うのもまた楽しくて

今も僕は温かい

「夢じゃない」のPVでは、何度直そうとしても動かなかったロボットですが、それが成功した世界線の話としてこの曲を捉えることで、すごく優しい話になります。

開幕いきなり「何度故障しても直せるから」という歌いだしです。何度直そうとしても直せなかったことを思うと、「何度故障しても直せるから」という一文は、とてつもなく嬉しい言葉です。もうこの一言だけで、この曲のテーマの説明はなにもかも済みました。この曲の世界観の温かさが、この一文に全部詰まっています。そのぐらい、温かくて、頼もしく、安心できる言葉です。たぶん、この一言が言いたいために、この曲が作られたのではないかと思うぐらいです。

この後の歌詞は、この温かさや頼もしさに急に触れたことによる、ちょっとした戸惑いを描いているんじゃないかなと。世界が崩壊して、何もかも終わったと思えるぐらいの絶望感の後で、でも「大丈夫だよ」と言ってくれる安心感。そんな優しさに触れて、ぎこちなく不器用ではあるけれど、ちょっとずつ受け入れていく姿を描いています。



マニュアル通りにこなしてきたのに 動けなくなった心

簡単な工具でゆがみを正して 少しまだ完璧じゃないけれど

可愛くありたいハレの日

このあたりも、「夢じゃない」のPVロボットの状況を想像してみると、しっくりくるんじゃないかなと。

本当はこの辺りは、「真面目に言われたとおりにやってきたのに、理不尽な目にあって傷ついている人」という補完の仕方が適切なのかもしれませんが、本当にロボットの曲だったとしても、その優しさが十分に伝わってくる部分だと思います。



愛をくれた君と 同じ荒野を歩いていくよ

ロンリーが終わる時 黄色い光に包まれながら

偽りの向こうまで

この歌詞の主人公は、「夢じゃない」のPVにて、修理をしてもらっていた小さなロボット目線なのだと思います。

「夢じゃない」のPVでの、主人公の大きなロボットは、どうして、もうひとつの、壊れた小さなロボットを必死に修理しようとしていたのでしょう? 同じような壊れたロボットがいつくも転がっている中で、どうして、このロボットだけ、必死に修理しようとしていたのでしょう?

それは、壊れたロボットの型番が偶然「i-O」だったからなんじゃないかなと。

ロボットのAIは、「i-O……モシカシタラ、人間タチガ言っていた大事ナもの、愛、トハ、これのことなんじゃないかナ…」と判断したからなんじゃないでしょうか。私たちスピッツファンが8823や3372といった数字の羅列に特別な意味を持たせているように、主人公のロボットもまた、「i」という型番を、特別な意味をもつものとして認識した、というのは、どうでしょうか?

修理して動くようになった小さなロボットは、大きなロボットと一緒に、いまだに荒野になっている世界を歩いていく。ふたりにとって、世界は荒野だけど、ロンリーではなくなりました。

厳しい現実の前では、この二人の間の温かさというのは、「偽り」のものかもしれません。「愛をくれた」と思っているのは、幻想かもしれません。行為としては、単に修理をしたり、歩いたりしているだけですから。

でも、二人にとっては、これはたんなる「偽り」ではありません。目の前の現実よりも大事な、大事にするべき「偽りの向こう」なのです。

修理をしてくれたり、一緒に歩いたりしただけで、「愛」と称しているのは、普通の人にとっては物足りないでしょう。「彼は私と一緒に散歩してくれるのよ。愛でしょう?」と言ってる人が現実にいたとしたら、「いや~、それは愛と呼ぶには、浅いんじゃない?」と私たちは答えてしまうかもしれません。コロナ問題、国際情勢、政治と経済、物価上昇しているのに、上がらない賃金……こんな不安定な世の中で、「彼は一緒に散歩してくれるのよ、愛でしょう?」だなんて言っている人がいたら、「いや、それよりも彼は仕事何しているの?年収は?財産は?ちゃんと家庭をもって生活できるだけの余裕があるの?」と、お節介なことをしてしまうかもしれません。普通の人にとっては、豊かで平穏な生活を保障してくれることこそが、愛のカタチだと思い込んでいるからです。

私たちが思い込んでいる「ほんとうの愛」に比べると、ロボットたちが発見した「愛」は、偽りのように思えます。

でも、とうのロボットたちにとっては、大事な絆なのです。



忘れ去られてく 闇に汚れてく

坂の途中で聴いた声は

再び一つずつ 記憶呼び覚まし 身体じゅう駆け巡る

ロボットのAIがどり着いた「愛」という感情は、私たち人間が大昔から考え、はぐくみ、教えられ、共有されてきた概念です。「夢じゃない」の世界は、人間も文明も滅びており、「愛」を知るものが一人もいなくなった世界です。そうやって忘れ去れた「愛」ですが、唯一、人間が作ったロボットのAIにより、今ふたたび地上に復活した、というのが、この部分の解釈です。

「アア…コレガ、愛」

と、ロボットの身体の中で、なにか特別な反応が起こっている。そんな様子がうかがえます。



ちょっと得意げに鼻歌うたってる 頼もしい君に会えてよかった

大きいロボットが鼻歌をうたっています。鼻歌のようにみえるのは、口が動くような作りになっていないし、喉によって発声しているわけではないからです。無表情のまま、音だけ、ロボットのどこかについているスピーカーから流れている、という状況なのでしょう。この様子を、小さいロボット目線でみると、鼻歌のように見えるというわけです。鼻歌をうたっているように見えていることにも、小さなロボットによる、大きなロボットに対する、深い愛情を感じます。

小さいロボットに向かって、大きなロボットは得意げに言います。「何度故障しても直せるからね」と。

「頼もしい君に会えてよかった」と、小さなロボットは、ここでもまた、人間にしか備わっていない感情をみせるのでした。




という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?

この詩を通じて一番言いたかった部分は、繰り返しになりますが「何度故障しても直せるから」の部分だと思うんです。

愛というのは、お互いの長所を伸ばしていけるよう協力し合い、人格的にも社会的にも立派になるよう、ともに成長し続けるといった、そんなキラキラしたものではありません。

どちらかといえば逆で、お互いの短所を補い合うことしかできないのが、普通だと思います。相手の短所を補おうとすることに、愛を一生懸命に注ぎ込むのです。

いわば、「修理」に全力を注ぐ。これがほんとうの愛のカタチなんじゃないかなと、この曲を通して感じるのです。





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