風待くだもの店~序章~

更新日:2021年5月22日




「昔は、梅の樹木がたくさんあったんだよね」


コーヒーの音をたてないように、こわごわ啜る少年。

そのカウンター越しで、風待くだもの店のお姉さんは、その艶やかな唇を軽やかに動かしながら、りんごを剥きはじめた。コーヒーを提供されてから今までで、オレンジ、グレープフルーツ、キウイ、イチゴと、かわるがわる取り出してきては、カットされていく。手のひらサイズのナイフが、まるで機械のように正確にリズムを刻んでいる。


「梅は、緑の宝石って呼ばれていてね。宝石のように価値がある果物だったんだよ。でも、梅って、管理が大変でね。それに最近では、あまり食べなくなったでしょう? 年々消費量が減っちゃってさ。だから、農家さん、梅の樹木を伐採しちゃったの。別の品目を栽培するためにね。梅の産地として、このあたりは全国的にも有名だったんだけれど、とはいっても、みんな生活がかかってるからね。売れなくなってきているのに、昔のことをいつまでも、引きずっていてもしょうがないよね。いいものが、正しく評価されるとは限らないのが世の中だから、とくに過失があったわけでもないのに、一度評価されていたものが評価を失うことって、あるんだよね。そして、過失があってもなくても、評価を取り戻すことは、すごく難しいんだよね」