こんにちは。八百屋テクテクです。
今回は、原田真二「タイム・トラベル」について解釈していこうと思います。
タイトルになっている「タイム・トラベル」は、みなさんどんなイメージですか? ドラえもんとか、キテレツ大百科のイメージでしょうか? ドラえもんとのび太君が恐竜時代にいって「わ~恐竜だ~!」とかやっているのを想像しますでしょうか?
でも、この詞で語られているのは、それとはちょっと違う、大人の雰囲気が漂う内容になっていると私は思います。
もっとも、この曲が作られた時代のSFは、大人向けのものもたくさんありました。SF作家の筒井康隆、小松左京といった大御所が活躍した時代でもあります。彼らが描いたような、ちょっと大人のSFだということを踏まえて詞を読んでみると、理解しやすいのではないのでしょうか。
街の外れの旧い館が君の家
日の暮れる頃呼び鈴押した
暗い廊下で君は無言の手招きさ
番紅花(サフラン)色のドアを開けたよ
「旧い館」は、ぼろっちい家、という意味ではありません。街の外れにある、いかにも怪しい雰囲気が漂う館、というのが正しい見方でしょう。そこに住んでる「魔女」が、「君」です。なぜ魔女なのかは、ひとまず置いておきます。
主人公は、魔女だと知らずに、この妖艶な女性の手招きを受けて、この館に足を踏み入れます。この主人公は、たぶん「この館では、タイムトラベルができると聞いてきたんですけど~」という、ワクワク系のファンタジー少年ではなく、単に女性の妖艶さに惹かれてやってきた、スケベだけど常識的な、ごくごく一般的な男性だったのではないのでしょうか。
そんな、何も知らないでノコノコやってきた男性は、女性にこんなことを言われます。
「ここに、3つの扉があります。どの部屋も、アナタの想像を超えるような、素晴らしい交情ができますわ。ただし、気を付けてくださいまし。あまりの気持よさに、戻ってこれなくなるかもしれませんから」
男性は、この女性の注意を、最初はただの比喩として受けとめます。いざとなったら、男性の腕力なら、女性を押しのけて出ていくことなんて容易でしょうから。
そんな慢心もあって、男性は、最初の扉を開けます。
スフィンクスが眠る砂漠に君は立ち
下弦の月に照らされてたよ
北極星の真下に尖るピラミッド
光の船を君はさす
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
クレオパトラの衣装の君が
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
そうささやいた ああ夢の中 ああ夢の中
この詞をエロティックな目線で眺めてみると、結構しっくりきます。
まず舞台として、古代エジプトを選んでいるところに、エロのセンスが光ります。ぼんやりとした光である下弦の月に照らされているのは、薄くて大胆な衣装である、クレオパトラの衣装を身にまとった魔女。クレオパトラの衣装として有名なのは、胸が丸出しになっているものです。この衣装でローマ皇帝をも篭絡したとされていますが、真相の是非はともかく、非常にエロティックなシチュエーションだと想像できます。
光の船ってなんでしょう? エジプト文化にはあまり詳しくないのでよくわからないのですが、エロい何かを示しているものかもしれません。例えば漢字の海という字には、「母」という文字が使われているとおり、女性の体を海に例えているのかなと。だとすれば、光の船は、男性の体ということになります。
また、スフィンクスが眠るクフ王の墓からは、「太陽の船」が発掘されています。これも漢字文化においての風習にはなりますが、女性が夜陰を司り、男性は太陽を司っています。
漢字文化に慣れ親しんでいる私たちからすると、この詞の表現からは、性愛を感じます。この詞にでてきている男性が現代日本人なら、彼もまた、そう感じていたのではないのでしょうか。
「ささやく」とは、小さな声でひそひそと話をしていることを指します。そう話すからには、男性と女性の距離はだいぶ近かったはずです。クレオパトラの大胆な衣装を身にまとった君が、接触しそうなほど近い距離にいるわけです。そして耳元で、囁いています。「いかが?」と。
「ああ」と男性は、感嘆の声をあげています。恍惚だったのかもしれません。そりゃあ、よかったですね。
黒い自動車すれ違いざまマシンガン
ニューヨークではお祭りさわぎ
旧いラジオが奏でだすのはチャールストン
FBIもタップ・ダンス
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
ハリウッド・クイーンまがいの君が
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
甘い吐息さ ああ夢の中 ああ夢の中
次の部屋は、ハリウッド映画の世界のようです。窓の外では、黒い自動車がマシンガンをやかましく撃ち合っています。そのほか、チャールストンのことを放映するラジオや、ウッキウキのFBIを眺めることができました。
では、それを尻目に、男性と魔女は何をしているのでしょう?
魔女の格好は、今度はハリウッド・クイーンまがいなのだそうです。ハリウッド女優の格好といえば、アカデミー賞の発表の際に、ひときわ目立つ衣装で登場します。胸元や背中がガバーッと開いた服を着ており、隙間からいまにも大事なところが見えそうになったりします。
こういう、キワキワの格好をした魔女が、甘い吐息で男性に聞いてきます。「いかが?」と。またしても男性は、感嘆の声を上げるしかありません。
最後の部屋は星降りそそぐ時の果て
幾千万の船が旅立つ
住めなくなった青い地球は窓の外
やがて小さな点に消えたよ
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
突然夢がそこで途切れた
時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?
ここは東京 君の手の中 君の手の中
時間旅行のツアーはいかが?
そして、最後の部屋にウキウキで入る男性。1番目、2番目でめちゃくちゃいい思いをしたので、今度の部屋も、めちゃくちゃいい思いができると想像していたのでしょう。
ところが、最後の部屋で出くわしたのが、地球崩壊のシーンでした。幾千万の宇宙船が地上から飛び立ち、代わりに地上に降り注いでいるのは、大小の隕石でした。
男性は宇宙船に乗って、崩壊した地球から脱出しようとしているところでした。窓の外には、ものすごいスピードの隕石が飛び交っており、隕石に被弾して爆散、撃墜される船もあったでしょう。まさに、阿鼻叫喚の世界だったのです。
1番目、2番目の部屋とはあまりにも違う雰囲気に、男性は戸惑います。男性と同じ宇宙船に乗っていたのは、魔女ではなく、宇宙船の乗組員として訓練を受けた技術者とか、屈強な兵隊とかだったのでしょう。
乗組員は、男性に告げます。
「御覧のとおり、地球はもうひとが住めなくなりました。これから我々は、何もない外宇宙に向けて飛び立ちます。暗い中、住める場所を目指して、ひたすら航行することになります。我々が生きている間に、それが叶うかはわかりませんが、これしか方法はありません。よろしいですね?」と。
男性は、言われるまま、うなづくしかありません。
宇宙船は、そのまま加速度を増して、地球から離れていきます。どんどん、地球だった星が小さくなって、ついには見えなくなってしまいました。
と、ここで男性は、夢から醒めます。
気が付くと、東京の、君の手の中だったそうです。
男性は、手の中にいるのです。男性は、過去から現在、未来へと時間旅行をしてる間に、未来、現在、過去、と逆に退行しているようでした。魔女との性行為に気を取られるあまり、自分の身体がどんどん小さくなっていくのに、気が付きませんでした。どんどん小さくなって生まれる前の姿になり、やがては、魔女の手のひらに収まるサイズになってしまっていました。こうなると、もう自分自身では動くこともできません。
戸惑う男性に、魔女は告げます。
「アナタは、同意しましたよね? これから、ひとつの可能性を信じて、何もない宇宙へと旅立つことを。暗い中をさまようことを。そうですよね?」
彼はひとつの遺伝子になって、魔女の中に吸い込まれていきました。彼が生き残るには、魔女の中にある卵子と同化して、ひとつの生命として再び生を受けるしか道はありません。暗い魔女の中は、先ほどの宇宙船でいっぱいでした。よくよく観察してみると、宇宙船に見えていたものは、自分がクレオパトラやハリウッド・クイーンに向けて放った、自分の精子たちでした。彼は自分の分身たちと争い、生き残りをかけて、魔女の卵子を目指して旅立っていくのです。
自分の中でうごめく精子たちに向かって、怪しく笑いながら、魔女はこう言い放ちます。
「時間旅行のツアーはいかが?」と。
という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?
この解釈があっているかどうかは、正直よくわかりません。でも、詞の中にあるエロティックな部分を抽出してみると、どうもこんな感じの物語が見えてくるのです。原曲の、原田真二さんの技術の高さも相まって、めちゃくちゃ不思議な曲として響いてきます。
エロテックだけど、怖い。そんな大人の話になっているような、そんな気がするのです。
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