スピッツ「えにし」は、スピッツとファンの縁の曲だった説~スピッツ歌詞解釈~



こんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、スピッツ「えにし」について、解釈していこうと思います。


ざっくりですけど、歌詞解釈のしやすさ的な観点から、前期スピッツと後期スピッツがあるなぁ、と思っていまして。

前期スピッツは、マサムネさんの才能が爆発している時期で、どこから手をつけていいのかわからないぐらい、解釈が非常に難しい曲が多い時期です。一方、後期スピッツは、マサムネさんが言葉をかみ砕いて、わかりやすいように書いてくれている曲が多い時期です。

どこからがどこまでが? っていう線引きは難しいんですけど、「ロビンソン」や「空も飛べるはず」の時期と比べると、「えにし」など、ずいぶん意味を汲み取りやすくなったなぁ、と感じます。解説、いるかなぁ? と思ってしまうぐらいです。だって、だいたい聴いたとおりなんですから。

この、えにしという曲は、読んで字のごとく「えにし」つまり縁を描いている曲です。「君に出会えてよかった」という曲です。

詞の中にでてくる「君」は誰のことを言っているのか、という点において、はじめて解釈めいたものが必要になってくるぐらいです。そのぐらい、汲み取りやすい曲でしょう。



錆びた街角で 日だまり探して

しかめ面で歩いた 汚れ犬の漫遊記

大切にしてた 古いラジカセから

聴こえてきてたような 実はよくあるストーリー

説明書に書いてないやり方だけで

憧れに近づいて

ここは、スピッツの歴史を描いている場面だと思います。有象無象のアーティストが集まる街角から現れて、日だまり、つまり、スポットライトを浴びる場所を探して頑張っていたけど、ずっと芽が出なくてしかめ面、というのが、ロビンソンでブレイクするまでのスピッツです。この頃はまさに「汚れ犬」だったわけです。

でも、この芽が出なくてしかめ面、の場面さえも、今となっては「漫遊記」、つまり、気の向くままに生きてきたよなぁ、と懐かしく振り返れるまでになってきています。

「大切にしてた~」の部分は、しかめ面して頑張って自分たちの理想を突き詰めてみたけれど、実は同じような理想を追いかけてヤツが周りに大勢いて、自分たちのオリジナルだと思いこんでいたものが、実はよくある陳腐なものだった、という、笑い話ふうに、オチをつけて語っています。

「説明書に書いてない~」の部分は、上のオチをフォローする内容になっています。「まあこんな感じでスピッツの半生は、うまくいかないことばっかりで、何度も折れそうにもなったけれど、でも誰のマネでもない、自分たちだけのやり方で、ここまで来たつもりだよ。これだけは、強調しておきたいよ」と言っています。



伝えたい言葉が あふれそうなほどあった

だけど愛しくて 忘れちまった

はずかしい夢見て 勢いで嘘もついた

そして今君に出会えて良かった

この部分は、本当に恋焦がれていた相手と出会ったことで、言葉が詰まってしまっている部分です。こういうことを言おう、ああいうことを言おう、と常日頃から相手と出会ったことを想定しまくっていたはずなのに、いざ本人を目の前にしてしまうと、途端に言葉を失ってしまいます。気持ちが溢れて、頭が真っ白になってしまうんですよね。

上記の部分は、マサムネさんの、大勢のファンを目の前にした心境なのではないのでしょうか。日だまりを探していた汚れ犬だった頃のスピッツが、ずっとブレイクしなかったスピッツが、今はホールをいっぱいにするほどファンに支持されるバンドになりました。スピッツのライブは、いつ行っても、CDに忠実に、丁寧な演奏をしていますが、スピッツにとってのライブは自分たちの自己陶酔の場所ではなく、来てもらっているファンに対して、精一杯の感謝を届けたいという思いなのでしょう。変な演奏をして、がっかりさせたくない、という、緊張の中で行われています。一方で、MCはグダグダです。これもやはり、好きな人を前にすると緊張して何も話せなくなるのと同じで、目の前のファンを大事にしていることの表れでしょう。グダグダしてはおりますが、決して、ファンをがっかりさせるような発言をしたことは、長い活動の中で一度もなかったはずです。

スピッツのライブにおいて、よく、「演奏は完璧だけどMCはグダグダね」と、そのギャップを面白がるファンも多いですし、私もそのファンの一人ではありますが、これは彼らにとっては別にギャップだとは思っていないかもしれません。どちらも、目の前の好きな人に対して、精一杯応えようとした結果なのだと思います。

「そして今君に出会えて良かった」まさに、これを言いたいのだと思います。



オレンジ色の空 名前を呼ばれて

役割思い出した ヨレヨレ紙飛行機

何となく信じてた伝説すべて

わがままにねじまげて

「ヨレヨレ紙飛行機」という部分ですが、これもスピッツのことを表しているのだと思います。以前にも自分たちを飛行物体に喩えて、ヒットチャートから撃ち落とされる表現をしていた詞がありましたが、ここでもそんな感じがします。ヒットチャートの中を、ヨレヨレになりながらも、なんとか飛行していっている、それがスピッツだよ、と、どこか客観視しながら語っています。「どうせヨレヨレですよ……」とか自虐的でもなく、あくまで、これがスピッツなんだよ、と言っているようです。

オレンジ色の空は、夕方です。ライブが始まる前ぐらいの時間です。ここで会場のスタッフさんに「スピッツさん、どうぞ~」と呼ばれて、「ああ、俺たちってスピッツだったんだ」と感じた部分なのではないのでしょうか。いや、痴呆が始まっているというわけではなく、あくまで、この名前を呼ばれた瞬間が、役割を自覚した瞬間だと言いたいわけです。スピッツの音楽を聴くために、大勢の人が会場に詰め掛けていて、その期待に応えるために、自分たちが今ここにいるんだ、という、緊張と使命感が宿る瞬間なのです。普段はヨレヨレ紙飛行機なスピッツも、この瞬間は頑丈な金属飛行機になるわけです。

「何となく~」の部分は、ロックに対する「こうあるべきだ」という思い込みを、自分たちの音楽を作っていくために、「捻じ曲げて」つまりいいふうに解釈してきた、という部分なのではないのでしょうか。もともとロックは「反抗」とか「社会批判」とか、そういう強いメッセージ性が込められているものでした。たぶんスピッツも、こういう強いメッセージ性のあるロックを聴いて、憧れたことで、自分たちもロックをやろう、としていたのではないのでしょうか。ところが、そうして作り上げられたスピッツのロックは、しかしながら、優しく柔軟で、繊細なものとなっています。



美しい世界に 嫌われるとしても

それでいいよ 君に出会えて良かった

「何となく~」の部分から繋がるこの部分ですが、「美しい世界」とは、自分たちが憧れた伝説のロックたちのことです。たとえばBeatlesが伝説であることは、だれも疑わないでしょう。彼らが発表した曲たちは、当時は「社会批判」に利用されるぐらい、強いメッセージ性がありました。それを聴いて育った世代の方々、あるいはBeatles本人たちが、スピッツの音楽を聴いたら、どう思うでしょう? 

先日「日本のBeatlesと言えば誰?」というテレビの企画があって、1位がMr.childrenで、2位がスピッツでした。今を生きている人たちにとっては、Beatlesをミスチルやスピッツに投影している人も多いんですよね。とはいえ、この結果には当然、反感もありました。ツイッターにて、音楽の玄人みたいな雰囲気の人による「偉大なBeatlesをあんなヤツらと一緒にするな」的な、お怒りのお気持ち表明ツイートが話題となりました。それを眺めて私は、面倒くさい大人がいるなぁと思う一方で、Beatles側からしてみればスピッツのロックは「邪道」であることは、否定しにくいなぁとも思ったわけです。

スピッツ本人たちもまた、この曲で、Beatlesを聴いてきたロック好きの人たちに、自分たちの音楽が「嫌われるとしても」と恐れています。自分たちの曲が「邪道」であることを、認識しているというわけです。

でも、続けてこう言っています。「それでいいよ 君に出会えて良かった」と。

スピッツの音楽が「邪道」でも、支持してくれるファンがいます。いやむしろ、スピッツの音楽こそ世界で一番好きだと思っている人だって、少なくないでしょう。そんなファンに対して、スピッツは「えにし」をありがとう、出会えてよかった、という、最大限のお礼を表現したのが、この曲なのではないのでしょうか。




なお、話は変わりますが、この曲において面白いところは、韻の踏み方にあります。



錆びた街角で 日だまり探して(TE)

しかめ面で歩いた(TA) 汚(YO)れ犬の漫遊記(KI)


大切にしてた(TA) 古いラジカセから

聴こえてきてた(TA)ような 実はよくあるストーリー


説明書に書いて(TE)ないやり方だけで

憧れに近づいて(TE)


伝えたい言葉があふれそうなほどあった(TA)

だけど愛しくて(TE)忘れちまった(TA)

はずかしい夢見て(TE)勢いで嘘もついた(TA)

そして今君に出会えて(TE)良かった(TA)


オレンジ色の空 名前を呼ばれて(TE)

役割思い出した(TA) ヨレヨレ(YO)紙飛行機(KI)


何となく信じてた(TA)伝説すべて(TE)

わがままにねじまげて(TE)


美しい世界に 嫌われるとしても

それでいいよ 君に出会えて良かった(TA)




という感じで、多すぎるくらいの韻を踏んでいるんですよね。

意味を通しながらも、韻も踏むという、芸術的なことをしています。



えにし、すごいですね!



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