スピッツ「渚」の本当の意味とは…?~スピッツ歌詞解釈~
- 2021年9月1日
- 読了時間: 8分
更新日:3月6日

こんにちは。八百屋テクテクです。
本日は、スピッツの夏の名曲「渚」について、解釈していこうと思います。
この詞は、「渚」ということに焦点を当てて、組み立てられた詞なのだと思います。
普通の人だったら、「渚」というタイトルで曲を作る場合、「渚での思い出」とか、「渚にいる若い男女」みたいなテーマで曲を作るのだと思います。「渚」というのはあくまでも風景で、メインとして登場させるのは、自分の想いだったり、男女の恋だったりするわけです。でも、常人ではない感性の持ち主であるマサムネさんは、「渚」そのものを、曲で表現しようとした。そう、思えるのです。
マサムネさんが考える、渚とはいったい、何なのでしょう?
普通の意味での渚は、波打ち際、というものにすぎません。ピンクレディーでいうところの「渚のシンドバッド」なんかは、波打ち際という意味で使われています。でもマサムネさんの描いた「渚」は、たんなる波打ち際という意味では、説明できないほどの膨大な何かを抱えています。
ウィキの、スピッツ「渚」の項目によれば、マサムネさんの大学時代、生物学の先生が「水中でも陸でも空気中でもない、全部が溶け合っている場所を”渚”といって、生き物の一番最初はそこで生まれたと言われている」と教えてくれたことに、いたく感銘を受けたそうです。そのことが、この詞を手掛けるきっかけになったとのことです。
渚の講釈に感銘を受けてから、渚の詞を手掛けるまでの長い間、マサムネさんの頭の中で、渚とは何なのか、というテーマを、大事に育ててきたのだと思います。
波が押し寄せ、そして還っていく。地球が誕生してから現在に至るまで、途方もない時間を、ずーっと繰り返してきた渚。人間が考えるものよりももっと巨大な何かであり、元素とか生命とかだけでなく、もっと目に見えない何かまでをも、生み出してきた渚。そして、これからも生み出し続けるであろう渚。表現しにくい畏怖の感情……。
これらを、一編の詞として表現するには、相当な技量が必要です。でも表現の幅も広がり、技量にもアブラが乗って来た、この頃のマサムネさん。ついにこの、巨大な生命、元素すべてに関するものを内包しているであろう、渚という大テーマに手をつけたわけです。
改めて、マサムネさんが考える、「渚」とはいったい何なのか。
これらを、歌詞を眺めながら紐解いていきたいと思います。
……え、こんなの一介の八百屋さんには、荷が重すぎないですか? 大丈夫ですか? あの天才マサムネさんでさえ、渚の完成まで数年の月日が必要だったのですよ?
まあでも、私の解釈が間違っていることもありますよね。ハハハ。だから気楽に、肩の力を落として、取り組んでいきましょう。このブログを読んでいるアナタも、どうぞどうぞ、軽い気持ちで読んでくださいね!
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ささやく冗談でいつも つながりを信じていた
砂漠が遠く見えそうなときも
ぼやけた六等星だけど 思い込みの恋に落ちた
はじめてプライドの柵を超えて
風のような歌届けたいよ
野生の残り火抱いて素足で走れば
柔らかい日々が波の音に染まる 幻よ 醒めないで
捻じ曲げた思い出も 捨てられず生きてきた
ギリギリ妄想だけで君と
水になってずっと流れるよ
行き着いたその場所が 最期だとしても
柔らかい日々が波の音に染まる 幻よ 醒めないで
渚は二人の夢を混ぜ合わせる 揺れながら輝いて
輝いて…輝いて…
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さて、渚を解説するにあたって、2点、お伝えしておきたいことがあります。
1点目は、渚を構成しているもの、つまり、生命の誕生を構成しているもの全部を、詞の中に提出しなければいけません。その課題を、マサムネさんは、この詞に課したのだと思います。
まず、渚の歌詞には、水、風、火、砂が入っています。ゲームなどによく出てくる、四元素ですね。古代ギリシャでは、この世界を構成している物質だと考えられてきました。
さらに、日と、月と、木が加われば、七曜になります。月火水木金土日ですね。暦にもなっているとおり、古代バビロニアにおいて、やはり世界を構成している物質だと考えられていたものたちが、七曜です。歌詞中には月は出てこないですけど、ぼやけた六等星というのは、もしかすると他の惑星からみたら、太陽の輝きを反射した月が、うっすら小さく見えるだろうから、そう表現しているのかもしれません。そして柵という字は、木偏です。日は、そのまま出てきています。
なお、渚の仮タイトルは、「七夕」だったそうです。
七夕の、七という字が使いたかったんじゃないかな、と思います。暦でもあるし、七曜の七とも数字が重なるからです。
そして、歌詞中には、生、恋、があり、最期、があります。最後ではなく、最期、つまり、死です。こう並べてみると、恋という言葉は、恋そのものを表しているのではなく、この並びとして、パーツの一部として、使いたかったのではないか、と思えるのです。
加えてさらに、それらとは逆の意味である、夢や幻という言葉がサビで強調されます。これだけ物質的な言葉を散りばめ、練り上げた歌詞で、もっとも強調するべきサビに、逆の意味である夢や幻といった言葉を使用しているのです。
散りばめられた物質的な言葉、生と死。そして、その逆の夢幻的な言葉たち。
これらのことを総合したものが「渚」に込められた意味だと、マサムネさんは考えているようです。現実世界と、夢幻の世界が混じりあった、混沌を、渚という場所に感じているということです。
どんなに科学技術が進んだ現代においても、人工的に生命を作り出すことが叶わずにいます。多くの物質が混ざり合えば、生命ができる、といった単純なものではないのです。もっと、人間が感知できていない、夢とか幻に該当するような何かが作用して、渚で生命が誕生しているのです。この、得体のしれない何かに、マサムネさんは畏怖をしている。そういう気持ちが込められていそうです。
さて、お伝えすべきもう1点目ですが、この詞は、一つ一つの節で事象が独立しているという点です。
つまり「ささやく冗談でいつも つながりを信じていた」という部分と、「砂漠が遠く見えそうなときも」という部分は、まったく別の場面であるということです。
いや場面が違うどころか、登場人物も違うのかもしれません。冗談を囁いてる人と、砂漠を遠目で見ている人は、別人だということです。
詞を繋げているので、勘違いしちゃうんですけど、これは「渚」がテーマなのであって、それを取り巻く人物や事象がテーマなのではないのです。なので、人物が同一でなければならない、なんてことはないのです。
たとえば、谷川俊太郎先生の代表作「生きる」の後半部分は、こうなっています。
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
どうでしょうか。一節一節が違う場面になっています。まるで写真で切り取ったかのように、ひとつひとつの場面がくっきり分かれていますね。同時に私たちは、「この詩は、特定の人物を焦点に描かれたものじゃないな」と理解することができるでしょう。この詞は「生きる」ということがテーマなのであって、「生きている主人公A君」がテーマではないからです。
同じように、渚の詞もまた、一節一節を写真のように切り取ってみると、より内容が理解ができるんじゃないかなと思うのです。
蛇足かもしれませんが、詞に補助線ならぬ、補助文章をつけてみましょう。
ささやく冗談でいつも つながりを信じていた それがあの子との友情を確かめる術だった
砂漠が遠く見えそうなときも この土地には緑が萌えている
ぼやけた六等星だけど 思い込みの恋に落ちた だからくっきりと輝きを取り戻したんだ
はじめてプライドの柵を超えて その向こう側に降り立った
風のような歌届けたいよ 遠くの君のもとまで届けたい
野生の残り火抱いて素足で走れば 強大な敵を倒せるだろう
どうでしょう。一つ一つの事象が、まったく違う場面になっています。なおかつ、生命力を感じる内容になっていると思います。
この詞は、前後のつながりを理解しようとすると失敗しますが、全体的に何を主張したいのかを理解するのに徹すると、とたんに内容が理解できる詞になっているのです。
マサムネさんはこれまで、そういう詞をたびたび制作してきました。「プール」なんかは、そうかもしれません。今回はそれをもっと、壮大にやってみた、という感じなのだと思います。
確かに、このテーマを扱うなら、この形式で表現するしかないと思えます。前後のつながりを気にしていたのでは、主張したいものがブレたり、小さくなってしまうからです。
そして最後のサビで、「柔らかい日々が波の音に染まる」のです。
友情に生きた青春の日々も、生い茂る緑も、星々の光も、試練を乗り越えた勇者も、風のような歌を奏でる吟遊詩人も、烈火のごとく戦場を駆け抜ける兵士も、すべて静かに土に還り、渚に回帰していき、また波の中で新しい生命になっていくのです。
谷川俊太郎先生は「生きる」の詩において、生きるとは何かを余すところなく表現しました。マサムネさんもまた「渚」において、自分の中にある「渚とは何か」を表現しきることに成功したのだと思います。
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