
こんにちは。八百屋テクテクです。
今回は、スピッツ「黒い翼」について解釈していきたいと思います。
この曲で描かれている事は、何も成果を出せずにいたマサムネさんが、芸術の悪魔と契約したことで、「無限の空に落ちていく」つまり、ヒットチャートで爆発的に売れることを現わしているんじゃないかなと思うのです。
マサムネさんは、本当はロックがやりたかったんですけど、このアルバム「Crispy!」より、ポップ路線へと変更をしました。すべては売れるためです。いわば、悪魔に魂を売ったに等しいのです。なのでポップ路線で売れても、マサムネさんの心は、本当の意味では満たされないでしょう。むしろ、自分が堕落してしまったように感じてしまうかもしれません。それを「無限の空へ落ちてゆけ」と表現しているんじゃないかなと。
詞を順番に眺めていきましょう。
黒い翼でもっと気高く
無限の空へ落ちてゆけ
いや、マサムネさんの心に後悔はありません。ロック路線でいけなかったことは残念ではあるけれど、路線を変更したことに対する後悔はないようです。それが「もっと気高く」とか、「落ちてゆけ」の、ゆけ、に現れています。マサムネさんは、自らの意思で、悪魔と契約を交わしにいったのです。ロック路線を捨ててでもいいから、音楽をやりたいという強い意志をもって。
嵐の午後にゴミ捨て場で目覚めたら
焦げた市街地をさまよう僕にさよなら
重いドアを無理矢理あけたなら
Jポップ音楽はこの当時、吐いて捨てるほど量産されていました。大量生産されては、大量消費され、飽きたら捨てられていく、そんな存在でした。
テレビをつければ「セーラー服を脱がさないで」というセクハラ全開の曲が普通に流れていた時代でした。「スカートがまくれちゃうでしょ」と、アイドルは歌詞どおりに、真面目に歌っていました。Jポップ路線にいくということは、つまり、これと同じ棚に、自分たちのCDが並ぶことになるのです。「セーラー服を脱がさないで」と、売り上げを競う土俵に立つことになるのです。マサムネさんもプロデューサーに、「セーラー服を脱がさないで、みたいな、大衆向けにエロくて売れる曲、やってくださいね」と依頼されてもおかしくない状況に身を置くことになるのです。
大量消費されるCDに、大量消費されるアーティスト。マサムネさんが足を踏み入れたそこは、まさに「ゴミ捨て場」と表現したくなるような場所だったのです。
でもマサムネさんは、そこで「目覚めた」のです。覚悟をもって、「セーラー服を脱がさないで」のような大衆受けするJポップに、真剣に取り組んでいくつもりでいます。
今までマサムネさんがいた場所は、「焦げた市街地」だったそうです。ロック路線は基本的には大衆受けしないことから、狭き門となっています。だいたいロックを視聴する層は、海外の凄腕アーティストを聴き込んでいます。レッド・ツェッペリンとかエアロスミスとかクイーンとか、そういう偉大なアーティストがライバルなのです。日本でロックといえばブルーハーツですが、ブルーハーツは世界的なアーティストで耳が肥えたロック視聴層をうならせた、いわば革命的な存在だったのです。スピッツは、この焦土と化した土俵で、勝負をしようとしていたわけです。こう書くと、戦闘機に対して竹槍で挑んでいるような無謀さを感じてしまいますが、本人たちにとっては、神聖なる戦いだったはずです。
でも、今までの神聖なる戦いをしていた自分たちに「さよなら」と、別れを告げています。音楽で売れるために、自分たちが忌み嫌っていた「重いドア」を「無理矢理」開けようとしています。ドアの先にあるものは、「セーラー服を脱がさないで」などの、神聖さとは程遠い、大衆の欲望にまみれた世界なのです。
黒い翼でもっと気高く
まだ見ぬ海を駆けてゆけ
悪魔に魂を売ったことで、マサムネさんの白くて神聖な翼は、欲望にまみれた黒い翼へと変貌しました。でも、気高さだけは失わないつもりでいます。自分なりの「セーラー服を脱がさないで」を、気高い気持ちで描こうと決意しています。
この、邪悪だけれど強靭な翼で、まだ見ぬJポップの海を、駆けていこうとしています。
いつもモザイクのきれはしだけ握らされ
笑い話のネタにもされてきたけれど
ほらもう二度と負けたりしないから
「笑い話のネタ」とは、「売れないバンドマン」に対する誹謗中傷のことだと思います。マサムネさんの心持が神聖であろうがなかろうが、他の人から見ると、マサムネさんは売れないバンドマンです。「いつまでも遊んでないで、真面目に働けよ」と心無い言葉が向けられていたのだと思います。
「モザイクのきれはし」とは、ロック音楽界におけるスピッツの立ち位置のことだと思います。鮮明な部分は、超有名アーティストが全部かっさらっていき、端っこの、光が当たらない、モザイクみたいに不明瞭な部分の、そのまた切れ端が、スピッツの取り分となっています。今までのスピッツは、その地位に甘んじていました。
でも、「ほらもう二度と負けたりしないから」と、決意を新たにしています。今度はJポップで再起を図ろうとしているのです。スピッツ版「セーラー服を脱がさないで」に、すべてを賭ける決意をしたのです。
黒い翼でもっと気高く
無限の空へ落ちてゆけ
ここから先は、同じフレーズが繰り返されますが、この繰り返した数だけ、マサムネさんの、純粋なロックで勝負できなかった残念な気持ちと、黒い翼で音楽業界を渡っていこうとする強い決意が現れているようです。
という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?
マサムネさんの、重いドアを無理矢理あけてゴミ捨て場に行く強い決意が、垣間見える詞だと思います。そしてその決意の行く先が、Jポップにあることもまた、想像できます。
歴史にイフはないにせよ、巡り合わせが悪ければ、スピッツが大衆に媚びを売るような曲を演奏してペコペコヘラヘラしている未来が、存在しえたのかもしれません。この詞の決意が本物だとしたら、冷や汗がでる想いです。「ロビンソン」で大ブレークしたことで「Jポップミュージシャン」のレッテルはついて回る結果にはなりましたが、それで済んだのがせめてもの幸いだと思います。やりたい音楽ができる環境になって、本当によかったと思います。
スピッツが好きな八百屋さんの記事一覧はこちらからどうぞ↓
Comments