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スピッツ「旅人」は、会社を辞める話だった説。



こんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、スピッツ「旅人」について解釈していきたいと思います。

この曲は、たぶん「会社員で働くのって、ヤなことばっかりでめっちゃダリーぜ。こんなクソみたいな会社辞めて、夢とか追って生きていきてぇよ」っていう、逃げたい気持ちを表現した曲なんじゃないかなと思います。

というのも、この時代、「真面目に頑張ってればいいことある」みたいなメッセージ性の曲が結構多かったんです。偶然にもミスチルもまた、ほとんど同時期に同じタイトルの「旅人」という曲を発表していますが、あの曲も「会社員として頑張って、夢を追いかけよう。それが旅人だよ」みたいな内容になっています。

スピッツはミスチルの「旅人」について「いやぁ意識したわけじゃないですぅ~。なんかこういう曲もあるよ~ってな感じで、スピッツのも聴いてもらえれば」みたいに述べていましたけれども、この詞の内容を見る限りでは、主張が真逆になっています。ミスチル版は、現在の課題に立ち向かいながら、現在にもがき苦しみながら、夢を追いかけようという力技スタイルなのに対して、スピッツ版は「もういやだ!こんな仕事辞めてやる!やめて俺はミューシャンにでもなるんだ!夢を追いかけるぞ~!」っていう、現実逃避スタイルになっています。面白いですね。同じタイトルの曲がでようとでまいと、両者のスタンスがまるで逆なのは、面白いところです。スピッツは、「旅人」における曲作りの段階では確かに「意識してない」とは思いますが、詞にたいするスタンスという、そもそも論としては、ミスチルとけっこう意識し合っている部分があったのではないのでしょうか

上記のことから、スピッツの性格、マサムネさんの詞の性格が伺えます。たぶん、世の中が「だり~よ会社疲れたよ~」っていう風潮だったとしたら、「頑張ってればいいことあるよ」っていう詞を作っていたと思います。世の中が「24時間戦えますか」ってなっていた時代だったので「24時間も戦えるわけないだろう!いい加減にしろ!」って反発したかったのだと思います。スピッツの中身は、反骨精神で出来上がっているのです。

スピッツ版「旅人」の内容が「根性無しの、ろくでなし」になっているのは、反骨精神からくるものだと理解していれば、私たちの心にグッとくるものがあると思います。そういうふうに読み取っていくのが、正解なんじゃないかなと思うのです。

前置きが長くなってしまいましたが、詞を順番に眺めていきましょう。




旅人になるなら今なんだ

冷たい夕陽に照らされて のびる影

冒頭で、旅人になることを決意していますが、これは「会社を辞めるぞ!」と言い換えてもいいと思います。のちほど触れますが、詞の内容は「どうして会社を辞めるのか」というものに終始していて、「じゃあ辞めたらどうするのか」については、まったくといっていいほど触れられていません。

また「冷たい夕陽に照らされて」と、その門出が祝福されたものではなく、まるで何かから逃げるような、後ろめたい気持ちがあるような表現になっています。

いったい、会社員マサムネさんに、何があったのでしょう?



やっぱりダメだよ 目を覚ましてもあの瞳

まっ赤なクレパス 塗りつぶしてく 無理矢理に

ここは、寝ても覚めても仕事のことを考えてしまっている状況を表しています。日々上司に怒られっぱなしのせいで、今日も明日も怒られるんじゃないかと、ビクビクしています。一晩寝て、朝起きても、まず思い浮かぶのは上司の怒った瞳です。「やっぱりダメだよ……」と朝から元気がありません。今日も会社に行かなきゃいけないのに、行く気力が出ません。

自分の中の可能性という名のキャンバスが、会社とか、上司とかという、まっ赤なクレパスで無神経に塗りつぶされていきます。マサムネさんがいくら歌が上手かろうと、作曲ができようと、会社ではなんの評価もされません。マサムネさんだって会社員であれば、私たちと同じように「おらー! 契約とってこいやー!」と上司にドヤされ続けられたでしょうし、私たちと同じように、嫌な顧客にもヘコヘコと頭を下げ続けていたことでしょう。



君を抱きしめて 鼻スリ合わせた

稲妻の季節甘いランデブー

会社員マサムネさんには、彼女もいたでしょう。安月給の中から、2Kの賃貸住宅の家賃を払って、彼女とふたりで細々と暮らす日々。彼女を抱きしめて、鼻をスリ合わせている時間だけが、唯一癒されている時間。でも会社は地獄みたいに忙しく、上司の怒号も稲妻のようになっているので、会社から帰っても「ひえーっ」とベッドに潜って、隠れるように過ごしています。大切な彼女だけど、そんな現実から逃避し、慰めてくれるだけの存在になってしまっています。



バッサリ切られて なんでそーなの 俺だけが

頭ハジけて 雲のベッドでフテ寝して

意地悪に賭けた ありあまる魂

飛び過ぎた後の 若いカンガルー

「大変申し訳ございませんでした。この失敗の責任は、すべて草野君にあります」と上司が責任をすべて押し付けてきました。「なんでそーなの 俺だけが」と言いたいでしょうけれども、口に出して言えないのが会社員です。イヤでも、上司がそう言うなら、責任をすべて被らなければいけません。それが会社員です。

自分はほどんど何も悪くないのに、責任を取らされ、その処理のために遅くまで残業して、帰る頃には「頭ハジけて」いたことでしょう。ふかふかのベッドで「フテ寝」したでしょう。

「意地悪に賭けた ありあまる魂」は、大勢の人が「この世は、善か悪か、どちらでできているかというと、悪で出来ているな」と思っていることを表しているのだと思います。大勢の人たちが「悪で出来ている」と思っているから、悪で出来上がっているのです。大勢の人が善だと信じていれば世の中は良くなるのに、悪だと思っているから、悪いように社会ができあがるのです。「ありあまる魂」が「意地悪」のほうを選んでいるから、世の中全体が意地悪になり、その結果、会社員マサムネさんが、ひどい目にあっているのです。

「飛び過ぎた後の 若いカンガルー」は、若さにかまけて、ろくに体調の事も気にせず労働し過ぎた、ということを言いたいのかなと。カンガルーだって飛び過ぎれば身体がボロボロになります。うつ病は、頑張りすぎることのできる人間がかかる病気なのです



旅人になるなら今なんだ

いかつい勇気が粉々になる前に

ありがちな覚悟は嘘だった

冷たい夕陽に照らされて のびる影

「いかつい勇気が粉々になる前に」は、「こんなクソみたいな会社辞めてやる!」っていう、辞める勇気があるうちに辞めよう、と言っているのだと思います。その勇気は、歳をとるごとになくなっていきます。そして「僕みたいな人間はどこにいっても使えないから、この会社で耐えていくしかないんだ…」という状態になります。歳をとれば、勇気もなにも、あったものじゃなくなるのです。だから、「旅人になるなら今なんだ」なのです。

「ありがちな覚悟」とは、「ミュージシャンになるから、会社やめるんだ」の、「ミュージシャンになるから」の部分だと思います。なぜ嘘なのかというと、覚悟が決まったので会社を辞めるのではなく、会社を辞めたいから会社を辞めるのです。

「旅人」つまりミュージシャンは、逃げる理由なのです。逃げる理由として選んでいるので、それでメシを食っていアテもなにも、この詞にはないのです。



ぐったり疲れた だからどうしたこのままじゃ

ひっそり死ぬまで 空を食ってくだけの道

ハリボテの中を のぞき見た時に

いらだちのテコが 全てを変える

会社員として頑張って、ぐったり疲れている場面です。このままだと「ひっそり死ぬまで 空を食ってくだけの道」というのは、重々わかっています。「空」は、何かを食べているようで、何も食べていない状態を表しているのかなと。私も忙しい会社員時代とかは、いつもカロリーメイトとかウィダーインゼリーとか、そんなもので済ませていました。まともな食事もできず、一体なんのために働いているのか、わけがわからない状態でした。会社員マサムネさんもまた、そういう状況に陥っているんじゃないかなと。

と、そんなに頑張って会社に尽くしてきた会社員マサムネさんでしたが、会社の中が「ハリボテ」だったことを知ってしまいます。この場合の「ハリボテ」の解釈はいくつかできます。「自分の頑張りがまったく会社の利益にならず、ただ上司の仕事してますアピールのためのものだった」とか、「会社の評価システムが正常に機能しておらず、働かなくても給料が多い部署もあれば、働いても給料が上がらない部署もある」とか。ようは会社が、まともな状態ではなかった、ということを言いたいんじゃないかなと。そんな会社で真面目に働いていたと気づいたら「いらだち」になるでしょう。それがテコの原理になって、会社を退職するための重い腰を持ち上げるきっかけになるのです。




という感じで解釈してみましたが、いかがでしたでしょうか?

たぶん今のご時世だったら、すんなり受け入れられる内容なんじゃないかなと思います。会社が命令したものでも、法律に違反しているものとか、ダメなものはダメですからね。

でも当時は、法律より会社の命令だったんです。そうやって誰もが歯を食いしばって、頑張ってきたんです。そういう人たちが、スピッツの「旅人」の内容を知ったら、「根性無しの、ろくでなし」と一笑に付すでしょう。

だからこそ、と私は思います。そんな時代に、堂々と意見を言えたスピッツはすごいと。堂々と自分の意見を持ち、反骨精神をもって社会にノーと言い、ブレずにずっと音楽をやってきたスピッツ。彼らが大成功を収めたのも、納得ができます。

一方で私は、会社の理不尽な命令に唯々諾々と従い、結局は犯罪まがいのことをやらされそうになって、耐えられなくなって会社から逃げました。私こそまさに「根性無しの、ろくでなし」なのです。大きな志を持って、大きな勢力に反発できなかった人間は、それ相応の人生を歩むことになるのです。

スピッツはこれからも大成功し続けるでしょうし、私はひっそりと小さな八百屋さんとして、こっそり営業し続けることでしょう。




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