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スピッツ「俺のすべて」は「かわいこちゃん、俺と悪いことしようぜ」っていう曲だった説~スピッツ歌詞解釈~

更新日:2023年7月22日



みなさんこんにちは。八百屋テクテクです。

今回は、スピッツの名曲「俺のすべて」について解釈していきたいと思います。

この曲は、シングル「ロビンソン」とのカップリング曲となっておりますが、リリース直前まで「俺のすべてをA面に、ロビンソンをB面にしよう」と考えていたそうです。結果的にロビンソンがA面に採用され大ブレイクしたことで、スピッツの今後の曲作りの方針がロビンソン寄りになったのですが、もし「俺のすべて」が採用されていたら、俺のすべて寄りのスピッツが誕生していたかもしれません。そんな、分岐点の一つになった、スピッツ史上とても重大な曲なのです。

ロビンソンの後にシングルで発表された曲たちは、「チェリー」「渚」「楓」「運命の人」「冷たい頬」「スカーレット」と、「マジメな青年」を彷彿とさせる曲たちばかりです。道を踏み外さないよう、真面目に生きている人。スピッツにそんなイメージが定着したのは、ロビンソンから連なる、この曲たちのせいでしょう。当時もそうでしたが、20年ほどたった今でも、世間の、スピッツに対するイメージといえば「真面目」でしょう。好きなアーティストに「スピッツ」を挙げれば「あ~、マジメなんですね」と愛想笑いをされることでしょう。

そんな、ロビンソンと対比になっている曲こそが、この「俺のすべて」なのです。


ブログタイトルにもありますが、この曲は、恋愛のことを歌っています。

恋愛って、そういえば、何なのでしょう?

マジメな人なら、こう答えるでしょう。「いい人に巡り合って、幸せな結婚して、幸せな家族を築くこと」と。「そのためには、いい学校に入って、いい会社に入らなくちゃね」と続きます。たいてい、マジメな人の恋愛観というのは、真面目な人生観とセットになっています。正しく真面目に生きていれば、正しく真面目な人と、正しく真面目にお付き合いができる。それが幸せだと。

いえいえ、なんの反論もでない、正しい意見だと思います。正しく真面目に生きることが、幸せになる条件です。太古の昔からずーっと言われてきたことであり、それが真理というものでしょう。

でも、そのマジメさというのが、疎んじられていた時代もありました。一昔前は、マジメな坊やより、不良のほうが女子にモテる、なんていう時代があったのです。男子は女子にモテたくて、不良の素質もないのに、不良っぽく振舞っていました。さすがに、バイクを盗んだり校舎の窓ガラスをたたき割ったりするのはごく少数でしたが、制服の裾を長くしたり短くしたり、後期ビートルズみたいな長髪にしてみたり、真っ赤なシャツを着てみたりするのは、ごくごく普通の光景でした。保健体育の授業では、クラスの半数の男子がオンナと初体験を済ませたと自己申告しており、済ませていないと真面目に申告した男子は、ひどく馬鹿にされていたりしたのです。

なんで、わざわざ、こんな面倒くさいことを嬉々としてやっていたのでしょう?

そう。繰り返しになりますが、不良になれば、モテたからです。

この不良たちと、不良たちを愛する女子たちとの間には、共有している想いがありました。

それは「清廉潔白な恋愛など、存在しない」という価値観です。

「いい人に巡り合って、幸せな結婚して、幸せな家族を築く」というマジメな恋愛観を、彼らは、軽蔑していました。本当の恋愛ではないと思っていたからです。親や学校に逆らって、社会に逆らって、自分を貫きとおすことこそ、カッコいい生き方だと信じていました。酒にタバコ、ギャンブル、流血を伴うケンカに明け暮れ、改造したスポーツーで公道を思いっきり加速する。気に入った女子がいれば、強引に唇を奪い、他に男がいたら略奪して自分のモノにする。周りは略奪愛だと、その愛の深さを賞賛する。……そんな危険な男と女による、刃物を交えるようなギリギリのやり取り。将来なんてこれっぽっちも見えないけれど、でも今が最高に幸せだから、それでいい。これこそが本当の恋愛の形だと、信じていました。

そんな、ギリギリを渡り歩いてきた女子にとって、親や学校の言いなりになって、勉強だけ頑張る男子の、どこに魅力を感じろというのでしょう? 「あのぅ、趣味はなんですか?」と、こわごわ聞いてくる真面目な男子を、鼻で笑わずにはいられるでしょうか?


現代においては、家庭とか安定した収入とか老後の生活とか、いわゆる安心を得るための手段として、恋愛というものがあるのだ、ということになっています。いや、今はというより、太古の昔からそうでした。女子は優秀な遺伝子を残すために、条件のいい男子を選んでいました。昔は身体的な能力がその条件でしたが、今は高年収であることが、その条件です。実に理にかなっています。一昔前の、「酒やタバコが似合うところが好き」とか「怒ると何するかわからないようなところが一緒にいてドキドキする」とか「彼は素敵なの。私を殴った後は必ず、私の頬を撫でてくれるから」とか言って、ウットリしていた女子たちは、現代人の理性ある我々からみると、頭がおかしいとしか思えませんが、当時の彼女たちには、自分たちこそが、世界で一番恋愛のことがわかっているという自負があったんです。


ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、この、一昔前の恋愛観こそが、「俺のすべて」を理解するうえで重要な部分になってくると思って、長々と解説してみましたが、どうでしょうか? 少しでもそんな不真面目な自分を思い浮かべることができるでしょうか? 当時の不良になって、キザに、女子を一夜限りのホテルに誘うテンションになれましたでしょうか?



燃えるようなアバンチュール うすい胸を焦がす

これが俺のすべて

「アバンチュール」の一言に、この詞のすべてが表現されているといってもいいでしょう。アバンチュールとは、「冒険的な恋」あるいは「危険な恋」と訳されているようです。アバンチュールは、特殊な恋の形なのです。上で挙げているような、不良たちが憧れた恋の形が、まさにこのアバンチュールです。

例えば、マジメな八百屋テクテクの店主と妻の恋愛には、どの期間を眺めても、アバンチュールが当てはまるところがありません。危険な要素がひとつもありません。もっとも、当てはまる人は少ないかもしれませんね。アバンチュールを一度は夢想するものの、それを行う勇気が出ないので、やめとこう、という人がほとんどだと思います。

でも、「燃えるようなアバンチュール」こそ、「俺のすべて」だと、この詞は言っています。普通に口に出して言えるようなことではないと、アバンチュールの意味を知っている人なら、思うはずです。



歩き疲れてへたり込んだら崖っぷち

微笑むように白い野菊が咲いていた

心のひだにはさんだものは隠さなくてもいいと

河のまん中光る魚がおどけるようにはじけてる

曲の冒頭です。いったいどうして、疲れているのでしょう。たぶん、この詞の男性は、普段はマジメに生きてきた人だったのでしょう。マジメに生きていれば、どこかで理不尽なことにぶつかります。その理不尽をなんとか対処しようとして頑張って、それでも乗り越えることができず、疲れ果ててしまったのでしょう。

いい学校、いい大学、いい会社、いい結婚……ひかれたレールのどこかで、ドロップアウトしてしまった彼。人生の崖っぷちに立たされたと思いきや、そこにはなんと、微笑むように白い野菊が咲いていました。人生が終わったと思っていたけれど、そこが実は、彼の本当の人生のはじまりだった、と気が付いたわけです。

白い野菊、そして、光る魚。彼が崖っぷちに立たされたからこそ、見えてきたモノたちです。この崖っぷちが人生のレールを外れたという比喩だとするなら、白い野菊や光る魚は、そこで出会った女性たちだと解釈することができます。路地裏でたむろしていたコギャルみたいな恰好の女子に「オメーそんなことで落ち込むなよ。そんなレール、アタシにはもともとないし。でも私は幸せだよ?」なんて、野菊のように、不器用だけど優しい言葉をかけられたのかもしれません。

「だから、やりたいこと、やりなよ。自分の心にしまいこんだものをさ。隠してないで」と、別の女子が誘ってきます。光る魚に例えられた彼女は、魚のようにしなやかな肢体の持ち主だったのでしょう。



燃えるようなアバンチュールうすい胸を焦がす

そして今日も沈む夕日を背にうけて

女子を毎日とっかえひっかえしている様子です。夕日を正面から眺めることができない、後ろ暗いことをしている自覚はあるようですけれども。

本来なら、マジメに働いて、会社に貢献しているはずの自分が、ドロップアウトして、毎日女の子と遊んでいるだけの自堕落な生活になってしまいました。その虚無感のようなものが「そして今日も沈む」のあたりに、にじんでいます。

そんな生活、本当はいけないとわかっているけれども、「燃えるようなアバンチュール」がやめられません。ダメだダメだとわかっているからこそ、引きずり込まれてしまうものなのです。アバンチュールは、それだけ魅惑的なことなのです。



俺の前世はたぶんサギ師かまじない師

たぐりよせればどいつも似たような顔ばかり

でかいパズルのあちらこちらに描きこまれたルール

消えかけたキズかきむしるほどおろかな恋に溺れたら

「燃えるようなアバンチュール」は、ある種の才能がないとできません。当たり前ですね。

八百屋テクテクの店主などは、その才能がなかったおかげで、いたって真面目な生活ができているわけですが、この詞の彼には、その才能が、幸か不幸か、備わっていたようです。

詞の中の彼は、どうも自分の前世は「サギ師かまじない師だ」と本当に思っているようです。こんなに簡単に人を騙せる能力があったなんて、真面目に生きていた時には気づかなかったでしょう。不良として生きてみようと決意したことで、はじめて見えてきた境地だったのです。彼はその才能を駆使して、いろんな女子と寝てみましたが、服を脱がせて裸にしてしまえば、どいつも似たようなやつばかりでした。彼の前では、どんな女子も、その時はみな同じ幸福な顔をするのです。

でかい迷宮のような社会と、そのあちこちに設けられたルール。今までは真面目に守っていた彼でしたが、そのルールから逸脱してみて、はじめて、「ああ、社会ってルールばっかりなんだな……」と俯瞰的にをみることができるようになりました。今まではルールを守ることに、さして不自由を感じなかったのに、この生活になってからは、途端に窮屈に思えてきます。

キズは、大事にしていれば治ります。それをかきむしるなんて、真面目だった彼では、考えもつかないことだったでしょう。でも、それをかきむしりたいという衝動に駆られています。ルールを破るということは、つまり、自分の傷をかきむしる行為なのです。ルールを破った人間が、一番不利益を被るのです。でも、その不利益を被ってでも、女の身体を抱きたい。身を滅ぼす行為だとわかっていても。そんな愚かな恋に溺れていきます。



燃えるようなアバンチュール 足の指もさわぐ

真夏よりも暑く 淡い夢の中で

何にも知らないおまえと ふれてるだけのキスをする

それだけで話は終わる 溶けて流れてく

「何も知らないおまえ」とは、何を知らないのでしょう? たぶんここは「詞の彼が、こんなに不道徳な人間だということ」だと思います。

ホテルに入って行為に及ぶ直前までは、不道徳な人間であることを知られてはいけないのです。「ちょっとチャラいけど、根は真面目」みたいなキャラを演出してやる必要があります。そしてターゲットの女の子に「俺さぁ、女の子にこんなこと言ったこと、正直今の今までないんだけど、はじめて君のこと、好きになっちゃったみたいでさ……」みたいな、深刻そうな顔をして打ち明けます。それで、女子をその気にさせて、ホテルに連れ込むわけです。

じゃあ、この女子こそが本命かというと、当然、そんなことはありません。こちらにとってはなんの情も湧かない、触れているだけのキスして、目的の行為に及んでしまえば、もうあとは知らん顔。それだけで話は終わるわけです。彼女との行為の記憶も、次の女の子を抱く頃には、溶けて流れてしまっているわけです。



燃えるようなアバンチュールうすい胸を焦がす

そして今日も沈む夕日を背にうけて

山のようなジャンクフーズ石の部屋で眠る

残り物探るこれが俺のすべて

こんな燃えるような恋を毎日のようにしていても、心は満たされていない様子が、最期に描かれています。

夕日が沈む様子が、ここでも出てきます。

「山のようなジャンクフーズ」「石の部屋」これが、最も彼自身の今の状況を表した言葉でしょう。レールに沿って生きていたなら、今頃は同棲する女の子か、妻がいたかもしれません。食卓には手作りの温かい料理が並び、温かい布団で二人で眠っていたでしょう。

でも、誰の信用も得ることができなかった彼には、ジャンクフードと、石のように冷たい部屋しかありません。冷たい部屋で、ジャンクフードを貪りながら、知り合いで誰か手を出せそうな女の子が残っていないかを、探る。この生活が「俺のすべて」というわけです。

後悔は半分あるけれども、もう半分は、不良で自堕落な俺かっこいいだろう? という部分があることもうかがえます。



いかがでしたでしょうか?

過激な内容で、ビックリしましたか?

最初に申しましたとおり、この曲は、ロビンソンとの対決で敗れて、B面に落ち着いた曲です。

もしA面として採用されていたとしたら、その後のスピッツの曲たちに、大きな影響があったことは、この解釈を眺める限りだと、想像ができます。

特に、今は昔と比べてクリーンな世の中になりましたので、風当たりが強くなっていたかもしれません。B面でひっそりと愛されるような曲でよかったと思います。


よい曲というのは、定義がいろいろあると思いますが、誰にでも受け入れられる曲がよい曲だとするなら、「俺のすべて」は、その範疇から外れてしまう曲でしょう。

しかしながら、当時の価値観で、当時を生きてきた人にとっては、このアバンチュール感は刺さると思います。誰もがアバンチュールをできたわけではありませんが、それゆえに、アバンチュールに憧れた人は多かったように思います。

可愛い女の子と、一晩の快楽に溺れる夢。この魅力をめいいっぱい描ききったのが「俺のすべて」なのです。




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