
こんにちは。八百屋テクテクです。
今回はスピッツ「クリスピー」について解釈していきたいと思います。
この曲は、アルバム「Crispy!」の一番最初の曲となっており、またアルバムタイトルにもなっている、いわばアルバムの方向性を示す曲となっております。この曲を眺めれば、アルバム全体の雰囲気がどういうものかがわかる、というものになっています。
ところで、アルバム「Crispy!」は、前作までマサムネさんのやりたいことを思いのままやらせてもらったけれど、売り上げがついてこなかったので、「そろそろ売れるものを作らなくちゃ…」という使命感から作られたものだそうです。ここから本気で売っていくために、曲を全体ウケを狙ってポップ調にしたりしました。
こういう背景があるので、詞もさぞや「売れるために頑張ります」という感じの詞になってると思いきや、なにやら振り切れていない気持ちが見え隠れしているような感じがします。
例えば、つんくが作詞したモーニング娘。の「サマーナイトタウン」では「大キライ、大キライ、大キライ、大スキ!」と、なんのひねりもないストレートで攻撃力の高いワードを効果的に使うことに成功しています。この「大キライ大キライ大キライ大スキ」の結論にもっていくために、説得力を持たせるために、その他の部分を積み上げていったのだと思います。
この理屈でいうと、クリスピーの詞の中でもっとも輝かせたいことは「クリスピーはもらった」の部分だと思います。クリスピーを貰って、ルンルンになっている気持ちです。「うわぁ、チョコレートだ、うわぁこっちはカスタードだぁ!」っていう気持ちこそ、もっとも伝えたかったことだと思うのです。
とするならAメロでは「お腹がすいたなぁ」とか「ぼく甘いモノが大好き!」といったことを言うのがセオリーです。でもマサムネさんは、なにやら違うことを訴えたいようです。
どういうことなのか、順番に眺めていきましょう。
笑われたっていいからと クライベイビー恋してた
輝くほどに不細工な モグラのままでいたいけど
「クライベイビー」とは、たぶん女児向けのおもちゃのことです。女児がお人形さん遊びで使うもので、大人の持ち物ではありません。同じように、感覚が発達しまくっているマサムネさんにとっては、「大好き!」っていう詞を書くことは、なによりも耐えがたいものになります。まるで子供のおもちゃで遊んでいる大人のようではありませんか。それで遊ぶのもイヤだし、それで喜んで遊んでいると思われるのもイヤです。
とはいえ、この時のマサムネさんは、会社から、女児向けのおもちゃの店員になりなさいと辞令が降りている状況なのです。自分が面白いと思っていた大人向けの曲がヒットチャートに載らなかったので、今度は少しレベルを落として、子供向けにウケる曲を作ることで活路を見出そうとしたのです。女児向けのおもちゃ担当の辞令が降りたからには、職務に忠実に、女児向けのおもちゃを頑張って売らなければいけません。売るためには、真剣に女児向けのおもちゃと向き合わなければいけないのです。
「笑われたっていいから」と、女児向けのおもちゃに恋をしているとは、そういうことだと思います。
次の「輝くほどに不細工な モグラのままでいたいけど」は、大人向けの曲を、それでも作っていたいという未練になります。マサムネさんは本当は、大人向けの部署で、わかる人にはわかる、複雑で芸術性の高いモノをコツコツ作りたいと思っているのです。それは女児からみたら、土の中に潜って見えないモグラみたいなものでしょう。なおかつ、掘り起こしたとしても、女児にはその美しさがわからない、まるで不細工なものに見えるでしょう。
クリスピーはもらった クリスピーはもらった
ちょっとチョコレートのクリスピー
ここでいきなり、平易でわかりやすいサビになります。「うわぁ!クリスピー貰っちゃった!ありがとう~!」っていう内容の詞になります。
急に女児向けに、営業トークをしはじめた店員みたいな感じです。知能を女児向けに落として、頭からっぽの大人のふりをして、「チョコレートのクリスピーだよ~ん」とニコニコ顔で女児の注目を集めようとしています。
最上級のクズよりも シーモンキー眺めてた
閉じ込められたスマイルを 独り占めにはしないでよ
「シーモンキー」もまた、子供向けの飼育用動物です。一方で「最上級のクズ」というのは、落伍者と言い換えたいです。音楽でいうなら、いろんな音楽を聴いて専門家ぐらいの知識を得たけれど、音楽では食べていくことができず、くすぶっている人を指しているのだと思います。そういう人は評論ができます。「Jポップなんかダセーよ。俺は洋楽ロックしか聴かないね」なんて言っている人です。マサムネさんは、彼ら「わかっている」人を相手に、商売をしたかったのです。自分の音楽は、彼らにギャフンと言わせるために存在していると思っていたフシがあります。
でも、このアルバム「Crispy!」からは、女児向けのおもちゃ売り場の店員になったのです。そうなろうと決意したのです。なので、シーモンキーの面白さを理解しようと頑張っているのです。
「閉じ込められたスマイル」は、女児のスマイルのことだと思います。マサムネさんは大人だし、大人向けの曲しか今まで作ってこなかったので、女児はまだスマイルを向けてくれません。「あ、あの人は私の人生には関係のないオジサンだ」としか認識されていないのです。女児は、女児向けのオモチャにつられて、トコトコとマサムネさんの前を素通りしていきます。
そんな女児に対して、店員であるマサムネさんは、「向こうばかり見てないで、こっちも見て欲しいな。君にもぴったりのオモチャ、あるよ~」と必死に呼び込んでいる様子が、「閉じ込められたスマイルを 独り占めにはしないでよ」から伝わってくるようです。
クリスピーはもらった クリスピーはもらった
ちょっとチョコレートの
クリスピーはもらった クリスピーはもらった
もっとチョコレートのクリスピー
目の前を素通りしようとする女児に、マサムネさんは必死になってPRします。「おいしいクリスピーだよ~ん。もっともーっと、チョコたーっぷりつけるよ~ん」と。
さよなら ありがとう 泣かないで大丈夫さ
初めて君にも春が届いてるから
ここは、今までのマサムネさんが作って来た大人向けの曲を聴いてきた人に対するメッセージになっていると思います。「今まで私の大人向け曲をご愛好いただきまして、ありがとうございました。本日をもって私草野マサムネは、辞令により女児向けオモチャコーナー部門へと転属いたします」と、今までの顧客にさよならと、ありがとうを伝えている部分なのかなと思います。
次の「初めて君にも春が届いてるから」というのは、せつない部分です。自分の曲を慕って聴いてきてくれた顧客が、わんわん泣いている状況を前にして「大丈夫です。アナタならきっと、俺よりうまいアーティストを見つけることができるよ。この別れが、次の出会いのきっかけになると思う。俺は君に春を見せてあげられなかったけれど、次の人が、君に春を届けてくれるよ」と、言いたいのだと思います。春とは、花が咲き乱れる季節のことで、つまり大ブレークのことだと思います。マサムネさんは自分の思うとおりの曲を作ってブレークすることを諦め、女児向けの曲でブレークすることを決意したことを示しているのだと思います。
クリスピーはもらった クリスピーはもらった
ちょっとチョコレートの
ちょっとカスタードの
ちょっとチェリーソースのクリスピー
女児向けオモチャ売り場の店員であるマサムネさんは、声をあげて女児とそのご両親にPRします。「チョコレートのクリスピーだよ~ん。こっちはカスタードだよ~ん。そしてそして~? チェリーソースだよ~~~ん」と。
という感じで解釈してみました。
この詞は、マサムネさんなりの、今までの方針を捨てて新しい方針でやっていきます、という決意表明の詞だと思うんですけど、それを見せられたプロデューサーの笹路正徳さんは、どう思ったでしょう? より平易な音楽をやろうと意気込んでいたマサムネさんが、「過去に未練はあるけど頑張ります」という正直すぎる内容の詞を意気揚々と仕上げてきたら、どう思ったでしょう?
たぶん笹路正徳さんは、頭を抱えたくなったと思います。彼が求めていたのは、「女児がわくわくする曲」であって、「女児向けおもちゃ店員の心の葛藤を描いた曲」ではないからです。
それでも、「ままよ」とこの曲にOKを出したのは、やはりマサムネさんの巨大な才能を、女児向けの曲として消費してしまうことに、音楽家として抵抗があったのだと思います。大衆向けに売り出したい一方で、この巨大な才能を開花させたい。そんなふうに思ったから、この曲を採用したのだと思います。
「クリスピー」には、この苦悩がにじみ出ている曲だと思うのです。
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