中学のころというのは、
周りにスピッツが好きな子がたくさんいまして。
んで、中学の卒業が近くなった時、
「自己紹介カード」みたいなのを
女子から渡されたことがありました。
卒業して離れ離れになるのに、
今更どうして自分を紹介せねばならんのだ、
とは、ちょっとは思いましたけれど、
女子から何かをお願いされることはもちろん、
話しかけれられることも、これまでなかったので、
お願いされればホイホイと
喜んでお付き合いさせていただきました。
そこに書くのは、名前や出身など
基本的なことだけではなく、
好きな色、食べ物、趣味などなど……。
私は、当時スピッツにハマっていたこともあり、
名前以外をすべてスピッツの曲名にしてやったのです。
好きな食べ物 →クリスピー
座右の銘 →空も飛べるはず
憧れの人 →バニーガール
宝物 →惑星のかけら
などなど。
最後に、好きなアーティストの欄をミスターチルドレンにして
その子に提出しました。
幸運なことに、その子はスピッツの大ファンでして、
私が書いた内容をちゃんと理解してくれて、
大爆笑してくれたのです。
なんていい子なんだ、と私も感動しました。
それ以前はほとんど話もしたことがなかったくせに、
中学で別れるのが寂しくなっちゃうぐらいでした。
その子が、別の女子たちに
「ねえねえ、テクテク君って、
将来バニーガールになりたいんだって。変態だよね~!」
と、とんでもない話をしはじめたので、
「君もスピッツファンなら、どういう意図かはわかるやろ?!?!」
という一幕もあったりしたのですが、
基本的には、仲良くお別れすることができたと思います。
(それ以来十数年、音沙汰ないけど……)
この出来事に味をしめた私は、
高校の入学時にも、それをやっちゃいました。
今度の自己紹介カードは、上記のような個人的なものではなく、
クラスのみんなと仲良くなりましょう的な感じで、
担任の主導で、クラス単位で配布され、回収して、
全員分のカードをまとめたものを再配布するという内容だったのです。
私は、中学の時のあの子の大爆笑を思い浮かべて、ウキウキしながら、
カードにスピッツの曲のタイトルを書き込んでいきました。
(これがクラス中に広まれば、大爆笑間違いなし、
そして私は、一躍クラスの人気者……ふっふっふ……)
そう、思いこんでいたのです。
こうして「スピッツの曲」が
めいいっぱい書き込まれたカードが回収されていきました。
再配布が終わり、クラスの子たちは、一斉にカードを見始めました。
だいたい女子は女子のカードを見て、
男子は男子のものを見ます。
みんな、隣の席とか、近場に座っているひとと盛り上がっています。
「なんかすっごい面白いカードがあるぞ!」
って誰かが言い出すのを、私は息をひそめて、
今か今かと待っていました。
やがてこの教室は、爆笑の渦に巻き込まれる。
その中心にいるのは、この私。
私とスピッツは、こうして鮮烈な高校デビューを飾ったのだった……。
私のその日の日記には、そう書かれるはずでした。
ところが、
その日は、誰にも触れられることなく、終わってしまったのです。
(えっ、なんで???)
と思いながら、私はクラスのみんなのカードを再チェックしました。
(もしかすると、私より面白いカードがあったのか!?!?
だから私のは目立たなかったのか?! もっと面白くなきゃダメだったのか!??!?!)
などと思ったりもしました。
そうですね。もうお分かりですね。
高校では、スピッツを聴きこんでいる人がいなかったのです。
ロビンソンやチェリーは知っていても、
バニーガールや不死身のビーナス、
トンビ飛べなかった、魔女旅に出るなど、
そういうのは誰一人として知りませんでした。
しかし、そういう状況なのだと、私は悟ることができませんでした。
スピッツを知らないひとがこんなにいるなんて、信じられない!
だって、スピッツなんだぞ?!?!?
世界スピッツ化計画は、いったいどうしたんだ?!?!?!
私はなおも、原因はスピッツの知名度とは考えず、
あくまで私のPRが足りないせいだと思い込んでいました。
なので、私はその後も一生懸命、自己紹介を続けたのです。
「出身かい? 多摩川だよ」
「好きな食べ物は、うめぼし」
「好きなタイプは、ナナとマリとミーコ」
「将来は、日なたの窓がある、プール付きのアパートにすんで、鈴虫を飼って、日曜日にはオーバードライブするんだ。まあ、五千光年の夢だけどね」
「でも好きなアーティストは、ミスチルだけどね。あっ、ここ、笑うところだけどね」
周りの反応は、当然、乾いた愛想笑いです。
だって、まるで意味がわからないですからね。
こうして、私の高校生活は、「スピッツが好きなやべー奴」という印象で始まり、
同時に、給食を一人で食べる生活がはじまったと、いうわけなのです。

今年の春ご入学、ご就職のみなさま、まことにおめでとうございます。
これからの生活、実のりあるものになるよう、お祈り申し上げます。