序章


「昔は、梅の木がたくさんあったのよ」


グリーンスムージーを音をたてないように、
ちびちび啜る少年。

そのカウンター越しで、風待くだもの店のお姉さんは、
りんごの皮をするすると慣れた手つきで剥いている。
まるで皮むき器でも使っているかのようで、
剥いた皮が、太くも細くもならない。
剥きながら、さっきから、その艶やかな唇を、
軽やかに動かし続けている。


「でも、梅の木って、管理が大変なの。
それに最近では、あまり食べなくなったでしょう? 
だから、みーんな梅の木を切っちゃったの。
昔は梅の産地として、全国的にも有名だったのにね。
とはいっても、みんな生活がかかってるからね。
昔のことをいつまでも、引きずっていてもしょうがない、
っていうのは、わかっているんだけどね」


少年は少年で、さっきから、
はぁ……、と生返事を続けている。

できるなら、話に乗ってあげたい気持ちはある。
でも、今のところ、彼女の話す内容には、
賛成も反対もできるポイントがなかった。
それはそうで、彼は、梅の木の運命など、
気にしたことがなかった。
無理もなかった。
梅の木を、ひな祭りの飾りぐらいでしか見たことがない。


「梅の話、年よりくさいですね」


とは思ったけれど、
まさかそれを口に出していうほどの勇気も発想もなく、
ただ黙って、手元のスムージーに視線を落としてみた。
もともと、このスムージーだって、
飲むつもりもなかった。

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